種苗法とGI法
品種登録制度(種苗法)
新たな品種を育成した者が国(農林水産省)に登録することにより、知的財産権のひとつである「育成者権」を得て、登録品種の種苗・収穫物、加工品の販売権を独占できる制度です。「創作したものを保護する」制度といえましょう。
1.登録要件
・登録には「区別性」「均一性」「安定性」「未譲渡性」「名称の適切性」をクリアしなければなりません。
①「区別性」・・・他の品種と特性の全部または一部において、明確に区別されること。
②「均一性」・・・繁殖しても同一の品種を均一に持つこと。
③「安定性」・・・その品種が育成した後の種子、またその種子でも同一の特性を持ち続けること。
※「均一性」は、同時期に複数の品種を繁殖した場合のことで、「安定性」とは、何世代に亘って同一の特性を保持していることです。
④「未譲渡性」・・・一定の期間、他の育成者等に譲渡されていないこと。
※例外があります。また、原則として最初の譲渡から1年以内の譲渡であれば出願可能です。
⑤「名称の適切性」・・・その新品種独自の名称であること。
※名称の適切性については、申請受付そのものを拒否するものではありません。
2.権利の存続期間・・・原則最長25年(果樹、茶、桑など、一度植えればずっと収穫し続けられる植物は最長30年)
3.注意点
①登録品種の種苗を譲渡・販売、そのための展示・広告を行う際には登録品種である表示が必要です。
②審査手数料がかかります。
③品種登録できる主体は「個人またはその承継人」と定められており、後述の地理的表示制度と異なり、法人格を持たない任意団体は出願できません。ただし、育成者が複数の場合、共同名義で申請するのは可能です。
4.育成者権侵害に対する措置
①民事上の差止め請求及び損害賠償請求などをすることができます。
②刑事上でも、侵害者に対して懲役もしくは罰金が科されます(両方の刑罰が科されることもある)。
地理的表示制度(GI)(特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法))
GIマーク(地理的表示)とは、「農林水産物・食品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質や社会的評価等の確立した特性が当該産地と結び付いているということを特定できる名称の表示」のことです。
例えば、「金山寺味噌」は和歌山県のみならず、静岡県などでも生産されています。
でも、紀州湯浅ならではの、独特な風味「紀州金山寺味噌」はそのままでは模倣されてしまう可能性があるので、「名称」「生産地」「生産方法」「品質基準」をまるごと登録することにより、行政によりその権利が保護され、類似商品を取り締まることができます。これが「GIマーク(地理的表示)」です。
※上記の通り、種苗法による新種登録は農産物などの植物に限られますが、地理的表示制度の保護対象は、農林水産物に限られません。ただし、酒類は現時点では保護の対象になっておりません。
ただし、登録をするにも要件があります。それをクリアし、登録すると、行政側が類似商品を取り締まってくれますが、登録後にも義務があり、それを保持しなければなりません。
GIマーク(地理的表示)登録の流れ
1.登録方法
①生産者個人による登録申請は不可です。必ず生産者が団体を作り、申請します。
※団体ですが、法人組織である必要はありません。また複数の団体が申請することも可能です。
②生産者団体が話し合い、以下の項目を決めます。
ア.名称 (必ず地名が入っている必要はありませんが、容易に生産地が特定できる名称であることが必要)
イ 生産地
ウ 特性
エ 生産の方法
オ 産地との結びつき
カ 生産実績
※概ね、25年以上の生産実績が必要です。
③②の内容を基に申請書を作成します。その際に「明細書」「生産行程管理業務規程」を添付する必要があります。
④農林水産大臣へ登録申請します。農林水産大臣は審査の上、②の内容をすべて登録します(下図の通り)。
2.登録の効果
①模造品の排除の強化
地理的表示法に基づき産品が登録された場合、GI登録産品を販売等する者は「地理的表示」を使用することができます。それ以外の者による地理的表示の使用は類似表示等を含めて原則として規制されます。
模造品等を防ぐことができるということです。
②取引の拡大・価格の上昇
登録を受けることにより、消費者からの信頼性が高くなり、取引の拡大・価格の上昇が見込まれます。
③担い手の増加
②の結果、新規の担い手を確保することにつながります。
④外国間の相互保護
2019年2月、我が国とEU・EPAとの相互保護が発効しました。相互保護の産品は当時の産品であり、日本側は48産品、EU・EPA側は71産品が相互保護の対象です(2019年2月現在)。
3 登録後の義務
登録された生産者団体は、「生産行程管理業務規程」に基づき、その構成員である生産業者が、「明細書」に適合した生産を行うよう必要な指導、検査等を実施する必要があります。さらに、農林水産大臣は生産者団体による生産行程管理業務が適切に行われているか、定期的にチェックするとともに、適切に行われていないときは改善命令を出し、それでも従わない場合は登録を取り消すことができます。
4地理的表示法違反・罰則
①地理的表示の不正使用については、農林水産大臣により命令が出され、それでも応じないときは、懲役・罰金に処せられます。
②登録後の義務違反
以下の場合は罰金に処せられます。
・生産者団体の名称等の変更の届出、登録失効の届出をしなかった場合 (虚偽の届出を含む)
・生産行程管理業務規程の変更や生産行程管理業務の休止の届出をしなかった場合 (虚偽の届出を含む)
・生産者団体等の関係者の報告懈怠 (虚偽報告を含む) 又は検査忌避等
まとめ
育成者権(種苗法)は「知的創造物」についての権利等を保護する制度であり、地理的表示制度(GI)は「営業上の標識」についての権利等を保護する制度です。新たな品種なのか、長年地域で育まれたものを保護するのかに違いはあるにせよ、それぞれ産物知的財産を保護していく制度には変わりありません。
ただし、問題点も多く指摘されています。地理的表示制度の普及があまり進んでいないことです。更なる普及の促進を農林水産省にはお願いしたいところです。