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成年後見制度の利用と後見事務のあらまし

成年後見制度はどのような人が利用するのか?

 成年後見制度が平成12年4月よりスタートして以来、その認知度の上昇に伴い、利用する方々は増加の一途をたどっています。
 平成12年度では、法定後見等の利用が約3,500件、任意後見の利用が20件であったのに対し、平成20年度では、法定後見等の利用が約25,000件、任意後見の利用が約400件と、約7倍に増えています。
 ただ、介護保険制度の平成18年度の介護保険サービス利用者数は429万人となっていて、その半数が何らかの認知症を抱える高齢者だと言われていることを考えれば、まだまだ少なすぎる利用者数だとも言えます。


後見事務のあらまし

ア.財産管理
 財産管理とはご本人(被後見人等)の財産を守るために活用すること、財産を減少することを防ぐことです。具体的には、例えば預貯金の管理・払戻し、公共料金の支払い、年金の受取、不動産の売買・賃貸契約などの重要な財産の管理・処分、遺産分割・相続の承認や放棄などの相続に関する財産の処分などです。
 
 例えば、認知症を患った方がマンションのオーナーさんだった場合、オーナーさんに代わりマンション運営に関する様々な行為を代理して行いますが、例えば部屋の壁の修繕や鍵の修理などの事実行為については含まれません。あくまで法律行為を代理して行います。もっとも、そういった管理会社との契約の締結等は含まれます。

イ.身上監護
  身上監護とは、日常生活や病院などでの療養管理に関わる法律行為で、例えば日用品の買い物、介護サービスの利用契約・要介護認定の申請・福祉関係施設への入所契約や医療契約・病院の入院契約などがあります
1.医療に関する事項
病院など医療施設の受診や契約、費用の支払い
2.住居の確保に関する事項
本人の住居を確保し、維持し、快適な住環境保持のために必要な情報収集、本人の意思確認、各契約、費用支払い
3.施設の入退所、処遇の監視、異議申立て等に関する事項・福祉施設の入退所・通所に関する契約、費用支払い
・福祉施設の本人の処遇に関する監視、本人の意思確認、情報収集、施設への苦情その他監督行為
4.介護・生活維持に関する事項・介護サービスなど、生活維持に必要な各種サービスを利用するための申請、契約、費用支払い
・本人の心身状態、生活状況、社会参加に関する希望の把握ならびに意思確認
5.教育、リハビリ、就労、余暇活動、文化的活動等の社会参加に関する契約、費用支払い
 この他、契約の履行が正しく行われているかを追跡調査し、場合によってはその誤りを相手方に指摘し、また裁判上の手続(代理権がある場合)も行わねばなりません。
 身上監護については、以上に挙げた事柄について、ご本人の意思を尊重しその希望をできる限り叶えて差し上げるよう、管理財産等を睨みつつ円滑に行うことが重要です。任意後見契約であれば、事前にライフプランを覚書にしておくなどの手段を取ることができますが、それよりも大切なことは後見人は常にご本人の意思を確認し、ご本人並びに医療・介護スタッフや地域の方々とコミュニケーションを取り続けることだと思います。


成年後見制度ではできないこと

成年後見制度ではご本人の「財産管理」と「身上監護」をその事務範囲としており、以下のことは後見事務にすることができません。
ア.日常生活に関する行為
ご本人が日常生活を行うための行為、例えば食料品や嗜好品その他の日用品の購入については、これに同意を与えたり、取り消したりすることはできません。
イ.事実行為
食事や排せつ等の介助や清掃、送迎、病院への付き添いなどの介護行為は、契約等の法律行為ではなく事実行為なので、後見人等はすることができず、ヘルパー等の専門家に委ねることになります(つまり、後見人等はこれらの専門家との契約事務についてご本人を代理します)。
ウ.医療行為への同意
 医療行為については、ご本人固有の判断が求められます。よって、成年後見人等が同意を与えることはできません。
 この他、例えば居住する場所については、緊急の場合などを除いて、本人の意思があくまで優先されます。親族らが後見人を説得して強制的に施設等に入居させるなどの行為は許されません。


親亡き後の子の問題

成年後見制度は、認知症等などを患う高齢者のためだけの制度ではありません。
 知的障がい者、精神障がい者などの子供を抱える方々の将来を支える制度として活用されなければなりません。
 障がいを抱えるお子様をもつ方々にとって、「自分たちが介護される側に立ったり、亡くなったりした後、子はどうなるのだろう?どうすればいいのだろう?」という心配があります。
それらの事態に陥った時に備え、お子様の身上監護・財産管理、さらにその親の死亡後の財産承継については、成年後見制度と遺言を組み合わせ、早期に対策を講じる必要があります。
例えば、ご両親がともに亡くなり、お子様が一人になってしまった場合、財産を他の親族に好き放題にされて、本人を保護する方もなく生活を送れなくなる、という事態にも発展しかねません。実際にこのような事態は日々、起こっているのです。
では、どのような対策を取ればいいのでしょうか?
様々な対策があります。ここでは、そのほんの一例をご紹介したいと思います。

法定後見を活用する対策 法定後見は、子がその障がいによって判断能力が低下したときに、子本人・親族等が申立てにより後見等開始とその後見人の指名を審判するものです。
 法定後見は、子が成人しなければ利用できません。しかし、子が成人すれば本人か親が申立てすることが可能です。
 ポイントとしては、後見人候補者をア.親自身とするイ.親を含めた職業後見人とで複数後見人候補者を立てる、のいずれかを選択することがよいでしょう。
 親が後見人として事務を行えなくなった場合、死亡した場合にはア.の親単独の場合には親族や利害関係人の請求又は家庭裁判所の職権により新たな成年後見人を補充することができますし、複数後見人を立てることができる場合には、後見人候補者として親が信頼のおける職業後見人を立てておけば、引き続き事務を行うことができます。

任意後見を活用する対策
 親の判断能力が低下したときに備えて、任意後見契約を信頼できる職業専門家を任意後見契約受任者と結ぶことにより親に代わって子の財産管理や身上監護を行うことができます(この場合、契約の当事者は親と任意後見契約受任者)。
 また、子に意思(契約を結ぶ意思+契約内容を理解する)能力があれば、成年であれば単独で、未成年であれば親が代理人として、子の任意後見契約を締結しておくという対策もあります。任意後見契約は移行型か将来型とします。子が未成年である場合や成年になっても親が元気なうちは任意後見契約を発効させる必要はないからです。

遺言または遺言信託の活用
 子が知的障がいや精神障がいをもつ親にとって、遺言を作成することは必須と言えると思います。なぜならば、最初に述べたように、子の判断能力が低下していることに付け込んで、他の親族や第3者までが財産を詐取してしまう、という事態が起こりえるからです。
 子に財産承継を円滑に行うために、公正証書遺言を作成しておくとよいでしょう。
 この場合、親に専門職としての任意後見受任者がいる場合や子の後見人が職業後見人であれば、それらの者を遺言の執行人に指定しておくと、事務の連続性の観点からスムーズになるでしょう。
  また、遺言信託や遺言代用信託を活用することで、具体的にどのような財産承継と利用を図っているかを決めることができます。

「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」について

成年後見の事務の円滑化を図るため、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が、平成28年10月13日から施行されました。
 改正法は,民法及び家事事件手続法の改正を内容としております。
 そのポイントは以下の通りです。
(1) 成年後見人が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛郵便物の転送を受けることができるようになったこと(郵便転送。民法第860条の2,第860条の3)
(2) 成年後見人が成年被後見人の死亡後にも行うことができる事務(死後事務)の内容及びその手続が明確化されたこと(民法第873条の2)
の2点です。
 これに伴い,家事事件手続法について,(1)及び(2)に関する審判手続の規定を新設するなどの改正がされました。
 改正法の具体的内容について、上記のうち、(2)を以下の通り解説します。
なお、本件の改正は成年後見のみを対象としており,保佐,補助,任意後見及び未成年後見には適用されませんので,御注意ください。

後見事務「死後事務」について

死後事務とは?
成年後見人がその職務として成年被後見人の死亡後に行う事務をいいます。死後事務の具体例としては、遺体の引取り及び火葬並びに成年被後見人の生前にかかった医療費、入院費及び公共料金等の支払などが挙げられます。
改正法により、成年後見人はどのような死後事務を行うことができるのですか。
まず、改正法により成年後見人が行うことができるとされた死後事務は、以下の3種類です。
(1) 個々の相続財産の保存に必要な行為
  (具体例)
〇相続財産に属する債権について時効の完成が間近に迫っている場合に行う時効の中断(債務者に対する請求。民法第147条第1号)
〇相続財産に属する建物に雨漏りがある場合にこれを修繕する行為
(2) 弁済期が到来した債務の弁済
  (具体例)
〇成年被後見人の医療費,入院費及び公共料金等の支払
(3) その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産全体の保存に必要な行為((1)(2)に当たる行為を除く。)
  (具体例)
〇遺体の火葬に関する契約の締結
〇成年後見人が管理していた成年被後見人所有に係る動産の寄託契約の締結(トランクルームの利用契約など)
〇成年被後見人の居室に関する電気・ガス・水道等供給契約の解約
〇債務を弁済するための預貯金(成年被後見人名義口座)の払戻し となります。
死後事務を行うための要件はどのようになっていますか。
成年後見人が上記(1)~(3)の死後事務を行うためには、
(1)成年後見人が当該事務を行う必要があること
(2)成年被後見人の相続人が相続財産を管理することができる状態に至っていないこと
(3)成年後見人が当該事務を行うことにつき、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合でないこと
という各要件を満たしている必要があります。 
 また,「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産全体の保存に必要な行為」を行う場合には、上記の要件に加えて、家庭裁判所の許可も必要となります。