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会社法務事例集

「A社は週1回元の野球クラブに同社所有の野球グラウンドを無料で貸している。ある日、バッティング練習中にその打球がグラウンドのフェンスの隙間から外に飛び出し、歩行者に当たってけがを負わせてしまった。なお、グラウンドのフェンスは老朽化が激しく、フェンスの網が所々で破れており、打球はそこから飛び出したものだった」
A社としては地元との交流の一環として無料でグラウンドを貸していたわけで、A社の好意というものでしょう。しかし、上記の事例の場合、「無料で貸していたのだから、当社に責任はない」とは言い難いでしょう。上記の場合、A社には「土地工作物責任」を問われるでしょう。

A社はこの野球グラウンドの所有者です。所有者には、その所有する土地の工作物の設置や保存に瑕疵があった場合に他人に損害を生じたとき、その被害者に対し責任を負わなければなりません。その責任を負うのはまず占有者(例えば賃借している者や管理している者)が責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしているときは、その所有者が責任を負います。もっとも、A社は占有者であると同時に所有者でもありますから、いずれにせよ責任は免れません。
この野球グラウンドのフェンスは老朽化による破損があり、この破損は「瑕疵」と認定されるでしょうから、A社は歩行者に対して責任を負わなければならないでしょう。このようなことにならないよう、A社はフェンスの修理を行い、利用者と様々な危険防止のための約定を取り交わすなどの対策を講じるべきでしょう。また、施設管理賠償責任保険等に加入し、利用者に「使用料」として一部の徴収を行うべきでしょう。
「A社は社員の福利厚生の目的で、不動産B社が分譲する新築リゾートマンション1区画を購入した。
そのリゾートマンションには、会員制のスポーツ施設が併設され、このリゾートマンション購入者に優先的に利用できる内容となっていた。
A社はB社に対して、当マンションの売買契約締結の上、5000万円を支払った。また、併設のスポーツ施設の会員権を購入、入会金および預託金として1000万円を支払った。
なお、このリゾートマンションの売買契約書には、スポーツ
施設会員権付(別途入会金および預託金が必要)であることが明記されており、またこのスポーツ施設の会則には、このリゾートマンションの区分所有権を譲渡した場合には会員たる地位を失う定めがあった。
上記2つの契約を締結した時点では、まだ施設の一部が完成していなかったが、一年以内に完成するということがパンフレット等に明記されていた。
ところが入会後2年を経た現在も、一部の施設が未完成、また未着工の部分さえある。これではA社の福利厚生の目的は達成できない。」
 上記のような、全体的にみればひとつのプロジェクトであっても、同一当事者間で複数の契約を同時に締結するということは、昨今珍しい話ではありません。しかし、もし一方の契約目的が何らかの理由で達成できないといったトラブルも起こりえます。
契約締結当時、上記スポーツ施設には未完成の部分があるにも関わらず、一年以内に完成する旨が記載され、それをAが契約締結の当然の前提としているのならば、期間内の施設未完成は明らかにB側の契約内容の履行の遅れ、つまり「履行遅滞」です。
この場合、A社は相当の期間を定めて催告して契約を解除し、B社に入会金および預託金1000万円の返還を請求することができます。問題はこのリゾートマンションの契約も解除できないか?ということです。つまり、A社がリゾートマンションを購入する前提としてこのスポーツ施設の完成を見込んでいたという場合、リゾートマンションも無駄になってしまいます。

契約上は別個の契約であっても、上記事例の下線部分にあるような、リゾートマンションとスポーツ施設の地位の得喪が密接に関連付けられているような場合、結論から申し上げると、実質的には一つの契約と見なすことができます。よって、スポーツ施設の完成の遅延による「履行遅滞」は、リゾートマンションについてもA社に契約解除権を発生させ、A社はリゾートマンションの契約を解除し、売買代金の返還を請求することができます。
 なお、A社の解除権が認められたとしても、B社の場合、経営的破綻状態に陥っている場合があるので注意が必要です。B社に余剰財産があるのであれば、仮差押等の保全手続を取る必要があるでしょう。
「不動産会社Aは、Yビルが競売の開始決定がなされていることを知り、これを取得し自社ビルとして利用しようと考えている。
Yビルには依然BとCが賃借している状態である。Yビルの所有者は、平成21年1月25日に抵当権設定登記を行い、かつ平成21年5月15日に競売開始決定による差押の登記がなされている。
Aは、平成21年7月25日に競落(取得)した。BとCに対し、明渡請求が可能か?」

さて、BとCの賃貸借の状況は以下の通りです。◎Bは、平成20年12月15日から期間3年間の賃貸借契約を締結し、その日から入居している
◎Cは、平成20年12月15日から期間3年間の賃貸借契約を締結しているが、入居はしていない

BとCは、ともに平成12月15日から期間3年間の賃貸借契約を締結している点で同じです。
違うのは、Bは入居していますが、Cは入居していない、という点です。
Aは平成21年7月25日より買受人になり、新しい所有者になりました。本来であれば、ビルの所有者が代わった以上、自由に明渡が請求できそうです。
しかし、それでは賃借人であるBとCが著しく不利益を被ります。
そこで、賃借人として対抗できる法的要件があります。
ひとつは不動産賃借権の登記です。これにより新しい大家さんにも賃借人の立場を守ることができます。ただし、登記するためには、賃貸人の協力がなければできません。
そのために、借地借家法で、新たな対抗要件が規定されています。
それは、「物の引渡し」です。
上記の事例の場合、「入居=引渡し済」ととらえることができます。
なお、賃借人が抵当権の実行による新所有者に対して、建物の賃借権を主張するには、抵当権設定登記前に賃借権の対抗要件を備えていなければなりません。
その点、BはYビルの抵当権設定登記前に入居(つまり引渡し)を受けており、対抗要件を備えています。
よって、Bに対しては、明渡し請求をすることができないと考えられます。
しかし、Cは入居していないので、対抗要件を備えていません。
ただし、Yビルの抵当権者がCの賃借権の方が優先することに同意し、かつ同意の登記をしている場合には対抗要件と同様の効果が得られ、Aは明け渡し請求はできないことになります。



「AはYビルのオーナーである。YビルはテナントとしてBとCに賃貸してきたが、今回Yビルを再開発したいと考えている。BとCとの賃貸借契約、及び明渡請求は可能か?
なお、BとCの賃貸状況は次の通りである。
◎Bは、Aの承諾を受けてこのテナントを甲に転貸していたが、AとBはこの賃貸借契約を合意の上解除した。
◎Cは、Aの承諾を受けてこのテナントを乙に転貸していたが、その後行方をくらまし、賃料滞納も6カ月続いていたので、AはCとの賃貸借契約を解除した。」
このYビルの賃借人であるBもCも、大家であるAの承諾を得て、甲、乙に転借しています。いわゆる「また貸し」ですね。
賃借物を転貸するには、その条件が法定されていますが、それが賃貸人の承諾を得ること。その点では、BもCも適法に転貸しているので問題ありません。
問題は、Aの都合により、転借人にテナントの明渡しを請求できる場合はあるのか?あるとして、どのような条件なのか?ということです。
その点、BとCでは事情が大きく異なります。
まず、B。A(賃貸人・オーナー)と合意の上、賃貸借契約は解除されました。
しかし、この場合、甲の転借人たる権利は消滅しません。
AとBの合意によって、甲のような正当な(承諾ある)権利を覆すことは、信義則(信頼に対して誠実に行動するという民法上の基本原則)上許されないからです。また、合意解除が転借人に対抗できるとすると、賃貸人と賃借人が共謀して、転借人の地位を覆すことも可能になるからです。
では、Cの場合はどうでしょうか?
債務不履行による解除により、当然に乙の権利も消滅してしまいます。
というのは、債務不履行という賃借人の行為(なお、判例では信頼関係を破壊すると判断される場合によらなければ、この解除権は認められません)により、乙の権利の基礎となる賃貸借契約が消滅してしまうからです。よって、乙は明渡請求には応じなければなりません。

以下の事例ではどうでしょうか?
◎Dは、平成21年2月25日から期間3年の賃貸借契約を締結し、その日から入居している。
◎Eは、平成21年2月25日から期間3年の賃貸借契約を締結しているが、入居していない。
DもEも、抵当権設定登記以降に契約を結んでいます。ただ、Dは賃貸借契約締結後に入居を完了しており、この点借地借家法上の対抗要件である、建物の引渡しを受けているように思えます。
しかし前回もお話したように、抵当権実行後新たな建物の所有者に対抗するためには、その抵当権設定登記以前に対抗要件を備えていなければなりません。よって、Dでさえ、所有者による明渡請求には対抗できないことになります。
ただし、Dは契約締結の日から入居しています。Dのように、その建物に入居し生活している方には6ヶ月間の引渡猶予が法定されています。この6ヶ月間の間に新しい入居先を探すことができるわけです。ただ、詐害目的(Aの建物の収益等を故意に妨げるといった目的)で入居している場合は猶予されません。

それに加え、同意の登記をDやEが得ている場合は、もちろんAに対して賃借権を対抗することができます。
「『山本不動産(以下山本と呼ぶ)』が管理する賃貸ビルにおいて、賃借人である『田中飯店(以下田中と呼ぶ)』の失火により火災が発生した。その火災はビルに燃え広がり、ビルの共有部分とさらに『鈴木書店(以下鈴木と呼ぶ)』の賃借部分まで燃え広がり、鈴木は販売用の書籍などの動産に被害を受けるとともに、営業も休まざるをえなくなった。」
このような商業用の雑居ビルのようなところでは、このようなボヤ騒ぎや火災が後を絶ちません。警報器の設置や消火器の設置さえも怠っている店舗をよく見かけますが、きちんとした防災への心構えと備えをしていないと、思わぬ大災害になりかねません。
ここで、(あくまで)民事上において、どのような責任が及ぶのか、あるいは火災に巻き込まれたときにどのような主張ができるのか、見ていきましょう。まず「所有者・賃貸人である山本は、田中に対してどのような責任を追及することができるのか?」です。
賃貸借契約では、賃貸人(貸す側)が賃借人(借りる側)に目的物(この場合テナント物件)を貸し渡し、賃借人はその代償として賃料を払って使用します。もちろん、契約内容に従った使用方法でなければなりません。のみならず、賃借人は『善良な管理者としての注意を持ってその目的物を保管し、契約終了後は現状に回復して返還する義務』を負います。
田中は自分の失火責任により、その賃借部分であるテナント物件を原状に回復して返還することができなくなりました。であれば、もはや義務を履行できなくなったことになり、これを理由に山本は田中に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求できます。共有部分や鈴木の店舗部分にまで火災が及んだことについても、修理代の負担責任を負うことは信義則上当然です。
一方、 「鈴木は田中や山本に対して、どのような責任を追及することができるか?」についてです。
これについては、鈴木と田中との間では、直截な契約関係にはありません。
ここでも信義則上の責任があるか否かについてが焦点となります。
田中は、そのお店の名前の通り飲食店です。であるならば、常に失火への配慮を要求されます。これは、当然防災への配慮を求められるべき店舗であるので、それを怠っていたという事実があれば信義則上損害賠償を請求することができるでしょう。
※なお、賠償の内容としては、店舗の修理代や書籍等の動産の弁償代、営業を休んだことによる相当な逸失利益等となるでしょう。
なお、失火について「失火責任法」という法律があります。これは民法上の不法行為の特則であり、失火が加害者の故意あるいは重過失であれば責任を負うというものです。
では、重過失って具体的に何?ということになってきます。
これが、ちょっと難しいんですが、一般的に「故意≒重過失」のような式が成り立つと言えましょうか?
例えば店舗でたき火をやっていて火災になった・・・たき火でなくても、バーベキューをしていた・・・こんなことはあり得ないほどの危険な行為であり、誰が考えても「危ないだろう!」と言える行為による火災は明らかに重過失です。あるいは、ほとんど故意とも言えましょうか?
最近は、例えば「テンプラを揚げている最中に長時間そこを離れた」という行為も重過失と見なされるようです。
ですので、田中の店舗が中華料理で、炒め物や揚げ物を調理していて、その最中に長時間離れていたという事情がある場合、重過失に認定される可能性もあります。
このように田中の重過失が明らかな場合、失火責任法に基づく損害賠償請求も可能になるのです。
鈴木(賃借人)は山本(賃貸人)に対して、どのような責任が追及できるでしょうか?
まず、第1に「賃貸人の賃借人に対する安全配慮義務違反」を理由とした損害賠償請求の可能性です。
賃貸借契約は双務契約であり、双方がその義務を負います。前回も書いた通り、賃貸人は賃借人に対して、その契約に従って賃貸物を使用・収益させる義務を負います。それに加え、「契約」そのものの性質に従い、諸般の事情によって賃借人が安全に使用できるように配慮する義務(安全配慮義務)も含まれると解されています。この義務は、例えば労働契約などもそうです。
今回のケースでは、賃貸人は鈴木など火器を使う飲食店にもテナント貸ししていたわけですから、例えば火災報知機の設置、消火器等の消火施設の配置、他の賃借人(例えば本件の鈴木)に対して防火の徹底などを行う義務があると言えましょう。また、このような義務を怠った過失があるのであれば、不法行為も成立し得ます。
第2に「土地工作物責任」というのがあります。
これは、その土地工作物(本件では賃貸ビル)の設置または保存(管理)に瑕疵があり、これによって被害を受けた被害者は、まずその土地工作物の占有者に損害賠償を請求し得ます。その占有者が相当な防火措置を取っていたのであれば、その責任は土地工作物の所有者が責任を負い、この所有者は絶対的な責任を負います。
本件の場合、田中が占有者ということになり、賃貸部分に瑕疵があり、仮に田中が相当な防止措置を取っていたと証明された場合、最終的に山本に対して損害賠償を請求することができるのです。

「『森本工具』は平成21年より電動工具「森本ドリル」を製造し販売していた。山田工務店はこのドリルを翌年に購入し、使用している。山田工務店に勤める結城さんは、建設現場でこのドリルを使用していたところ、突然ドリルの先端が折れてしまい、結城は負傷してしまった。なお、このドリルの保証書には、購入後3年間の製品の無償補修が規定していたが、それ以外の補償についての記述はない」
さて、けがをしてしまった結城さん。大変気の毒ですが、いったいこの負傷について、誰にどのような責任を追及することができるのでしょうか?
 まずは、この『森本工具』に対してです。 不法行為責任を追及するのも手段の一つでしょう。しかし、不法行為を証明するのは被害者である結城さんです。具体的には、この工具の製品としての欠陥について、製造業者である森本工具の過失を証明することになるのですが、これは大変困難が伴います。
  そこで、そのような過失証明をすることなく、製品の欠陥さえ証明すれば、製造者側が責任を取らなければならないという法律、「製造物責任法」を適用させることが有効です。
  製造業者である『森本工具』の製造物である『森本ドリル』を、建設現場にて通常の使用形態で使っていて、なおかつまだ購入して一年前後であるということから、製造物そのものに欠陥があったことは明らかです。よって、結城さんは森本工具に対して、製造物責任を追及することができるのです。
  そして、次は結城さんの勤め先である『山田工務店』に対してです。もちろん、このような勤務中の負傷は労災の対象となりますが、ここではあくまで民事上の山田工務店の責任についてです。 使用者である山田工務店は、結城さんに欠陥あるドリルを用意して使用させました。
  山田工務店は、雇用関係にある結城さんに対して、その生命や健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っています。これを安全配慮義務と言いますが、明らかに山田工務店は上記の行為についてこの安全配慮義務を尽くさなかったことになり、結城さんからの債務不履行責任(雇用も一つの契約である)を追及されることになるでしょう。
これまでサラリーマンでしたが、心機一転独立を果たし、個人事業を始めたばかりです。
初めてお客様と取引をすることになったのですが、お客様から「覚書を取り交わしたい」と言われました。
覚書と言われましたが、こういう場合は契約書ではないでしょうか?覚書と契約書の違いは何ですか?
1.「契約書」「合意書」「覚書」はなにが違うのか?
 会社経営のみならず、個人間でも取引などで「契約書」、「合意書」、「覚書」といった文書を取り交わすことがあるでしょう。「○○契約書」や「○○に関する合意書」というように文書の内容を表題に表す場合もあります。
 では、この3つの表題、どのような違いがあるのでしょう?
 
2.「契約書」
 契約書については、これから実行しようとする取引について、商品の引渡し時期や売買代金の金額、約束が守られないときの違約金などの取引条件を明確にすることを主な目的として作成されることが通例です。
3.「合意書」
当事者間で合意した内容を明らかにする目的で作成される文書が「合意書」の表題にふさわしいでしょう。契約時に決まっていなかった取引条件を合意する場合や、契約当時に想定できなかった事態に対処するために処理方法を合意した場合、契約外の関係でも不法行為などにより損害を受けて相手方に責任を認めさせて賠償額を合意した場合などに作成されます。これから取引をしようという場合に限定されない点で「契約書」の場合より広い使われ方をしています。
4.「覚書」
 それに対して、覚書という場合、なにやら備忘のためのメモ書きのような印象もあるでしょうが、こと契約関係の文書としてみるならば、事実認識や契約条項の解釈で不明確な事項がある場合などトラブルになりそうな事項について、その時点における共通認識を確認しておく場合などに利用されます。